販売店・代理店契約の思わぬ注意点について解説

海外での販路を開拓する典型的な方法は、現地のパートナーと販売店契約又は代理店契約を締結する形態です。海外展開の段階としては、直接貿易に次ぐステップであり、基本的に契約のみで成立する間接進出であるため、パートナーが見つかれば開始のハードルは低めといえます。しかし、実は注意点が多く潜んでおり、それらを曖昧なままで進めたことが原因で痛い思いをするケースを何度も見ています。以下ではポイントを簡潔にまとめます。

なお、貴社が海外メーカーの日本における販売店・代理店になる場合は、立場を置き換えてご参考としていただければ幸いです。

  • 1.販売店と代理店を明確に区別

    まず、ご相談者によくあるのが、そもそも想定している取引が販売店契約(Distribution)であるのか、代理店契約(Agency)であるのかが曖昧であるケースです。両者は似て非なるものであり、その区別は法的に大きな意味を持ちます。簡単に述べれば、販売店は、一旦製品を買い取り、自社の責任で顧客に販売し、在庫リスクを負担します(その代わり差益を収受します)。一方で代理店は、あくまでサプライヤー(自社)と顧客との取次ぎをするのみであるため、顧客に対する売主としての責任は負わず、また在庫リスクも負担しません(コミッションとして利益を収受します)

    この出発点が明確になっていないと、契約内容も定まりません。一般には、販売店よりも代理店の方が「身軽」な立場となりますが、販売店は、思い責任を負う分、利幅も大きくなる傾向があります。

  • 2.販売権・代理権の内容を明確に

    次に、販売店、代理店、いずれの場合も、販売権、代理権の範囲を明確に定めることが肝要です。特に、独占権を与えるか否かは重要であり、どちらのケースであっても、誰が見ても一義的にわかる形で契約に常に記載する必要があります。また、独占権を与える場合は、どの製品について、どのテリトリーについて与えるか、そして独占権を維持するためにはどのような条件を満たすことが必要か等を明確にします。さらに、サプライヤーによる販売の可否や、二次販売店・代理店の利用の可否も明確にしておかないと、後ですれ違いが生じます。
  • 3.最低購入義務の要否と違反の効果

    販売店・代理店に独占権を与える場合は、最低購入金額を設け、それを達成できない場合は何らかのペナルティを課すことが効果的です。最低購入義務を達成できない場合、契約自体を解除できるようにするというドラスティックな設定も可能ですが、独占権を解除できるようにする形が一般的といえ、加えて購入保証や金銭補償をさせることもあります。ここをしっかり押さえないと、販売店・代理店が期待通りの営業をしてくれないのに、独占権が邪魔をして他の業者に切り替えられないということが生じてしまいます。なお、独占権を与えない場合は、義務という形ではなく、インセンティブ(例えば、一定の実績を満たした場合は更新後の条件を有利にする)を与えることも選択肢です。
  • 4.知的財産(標章等)の管理

    販売店・代理店には、自社のブランド・ロゴ等の使用を認めて営業活動を行ってもらうことが一般的ですが、その管理や使用方法については自社がコントロールするべきです。特に商標は、海外現地の登録は自社の名義で行うべきであり、販売店・代理店に行わせてはいけません。当該販売店・代理店との関係を解消しなければならない時に、その登録を取り戻さなければ、その後の活動の支障となるためです。契約で明確に禁止しておかないと、販売店・代理店が善意で商標登録するケースもあります。
  • 5.競合品の取り扱い

    販売店・代理店が、対象製品と競合する製品を取り扱うことを認めるか、きちんと判断し、禁止するならば対象や期間をできるだけ具体的に契約に明記する必要があります。独占権を与える場合には競合品の扱いを禁止する例も多いと言えますが、非独占の場合は販売店・代理店の抵抗を受けることが想定されます。禁止する場合、違反に対して違約金を課すケースもあります。
  • 6.再販売価格と独占禁止法

    サプライヤーとしては、海外現地での販売価格をコントロールしたいという考えが当然にありますが、販売店について再販売価格を拘束することは、原則として独占禁止法に違反すると理解しておく必要があります。適用されるのは現地の独占禁止法ですが、この点は万国共通のルールと考えておいた方が無難です。他方、代理店の場合は、このような独占禁止法の問題は生じません。顧客へ販売する主体はサプライヤーであり、代理店が再販するわけではないためです。それゆえ、市場価格を直接コントロールしたいと考えるサプライヤーとしては、代理店形式の方が管理しやすいといえます。
  • 7.契約期間と、実効性のある解除条項

    契約期間を適切に設定することは重要です。特に独占権を与える場合、パートナーが期待通りの働きをしてくれないのに、独占権が邪魔して他のパートナーに切り替えられないというケースがよく見られます。また、非独占の場合でも、新しく組みたいパートナーが独占権を希望した場合、既存の非独占契約の存在が障害になることもあります。そのような状況を想定し、特に信頼関係が築けていない初期は、契約期間を短めに設定して早期に任期満了で終了できるように工夫します。もっとも、販売店・代理店側としては、投資を回収する前に契約を終了されては困るため、(特に独占の場合は)長めの期間を希望することが自然ですので、上手くバランスをとる必要があります。また、いずれの場合も、契約違反があればきちんと解除できるように契約書をドラフトしておくことは必須です。
  • 8.輸出販売と共通する事柄

    販売店契約の場合は、販売店に対して製品を輸出販売することになり、代理店契約の場合は、代理店を通じて顧客に製品を輸出販売することになりますので、輸出販売のコラムで述べたことが共通して問題となります。

    輸出販売のコラムへのリンクはこちら

    輸出販売における契約書や代金回収リスクについて解説

海外の販売店・代理店契約に関するご相談

海外に販売店・代理店を設置する、または自社が海外メーカーの日本やアジアにおける販売店・代理店になる、という場合は、準備段階からこのようなポイントを検討し、ビジネスを設計した上で、条件交渉を経て契約書に明確に反映させることが肝要です。

当事務所は、ビジネス構想段階でのご相談から、契約書の作成・交渉までサポートしておりますので、お気軽にご相談ください。

監修記事
樋口一磨

樋口国際法律事務所代表 樋口一磨

慶応義塾大学、一橋大学大学院、ミシガン大学ロースクール卒業。 日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士として、国際取引や海外展開の支援に強みを持ち、企業法務全般から身近なトラブル解決まで、国内・国外を問わず幅広い分野を親身にサポートする。

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