海外業者への生産委託で注意するべき9つのポイントとは?

海外の安価な労働力は魅力ですが、現地に大規模な投資をして自社工場を設置することはハードルが高いです。そこで、海外の業者に部品や完成品の製造を委託することがよく行われます。しかし、海外メーカーの製造に関する考え方は、極め細やかな日本人のそれとは異なり、また遠隔地ゆえ管理上の制約もあることから、トラブルも多いのが実情です。

  • 1.委託内容を明確に

    製造に関する日本人の意識の高さや繊細さは世界一とも言えるものです。海外の業者は、どんなに真面目であっても、商慣習や規格が違いますので、そのままでは日本人の求める品質のものを作ってくれることは期待できません。従って、仕様やプロセスをできるだけ明確に定めることが大切です。そしてその内容は、口頭で済ませることなく、契約書や仕様書等の書面をもって残しておくことが肝要です。

  • 2.実効性ある品質管理

    自社製品が実際にどのような環境や管理の下で製造されているか、また提供したノウハウが流用されてないか等を確認するため、現地工場への立ち入り検査などを自由にできるようにしておくことが重要です。契約書にそのような監査権を明記しておくことは必須といえますが、実務レベルで実効性ある品質管理ができるかが成功の鍵といえます。

  • 3.再委託の可否と管理

    製造拠点では、重要なノウハウ等の知的財産が共有されますので、実際に製造される主体がどこであるかを把握してコントロールすることが必要です。ゆえに、下請への再委託を認めるか、認める場合はそれをどのように把握し、管理するかをきちんと定めることが大切です。知らないうちに聞いたことのない工場で自社製品が作られ、機密情報も散逸していたということがないようにしなければなりません。

  • 4.納期と検収プロセス

    納期を守るという意識の厳格さは、日本人が世界一であるといって過言ではありません。それが日本の信用にもつながっているのですが、こちらが委託者となる場合は、海外の業者が日本人のように時間を守ると思ってはいけません。納期は余裕をもって明確に定めるとともに、納期を守らなくても当然というくらいの意識をもって付き合うべきです。

    また、支払いの前提となりうる検収のプロセスや条件をわかりやすく記載することが大切です。こちらがはっきりと合格を伝えるまで検収とならないことを自覚させるべきです。検収が上がらないとして支払いを拒んだところ、追加の納品を止められたというケースはよく耳にします。

  • 5.品質保証

    納品された製品に問題があった場合、いつまで、どのような保証をしてもらうのか、詳細に記載することが肝要です。買主としては、できるだけ長く、手厚い対応をしてもらえるよう交渉を惜しまないことです。何も定めがなければ準拠法によって決まる(日本法であれば契約不適合責任等)ことになりますが、相手国法になる可能性もあり、トラブル時にコンセンサスを得ることは困難となります。。

  • 6.委託料の支払い条件

    海外の業者が、設備投資や仕入れが必要であるなどとして、代金のかなりの割合を前払いするよう希望するケースがよくありますが、代金を支払ったのに納品されない、あるいは追加料金を支払わなければ発送しないなどと請求されるトラブルは珍しくなく、要注意です。納期や品質に不安がある状態では、きちんと納品しなければ代金を支払わないという条件付けが最も効果的なリスクヘッジといえますので、信頼関係が構築されるまでは、安易に譲歩しないようにしましょう。

  • 7.知的財産(ノウハウを含む)の管理

    海外メーカーには、貴社の重要な技術を提供して製造してもらいますので、それが流用されたり、外部に漏れないよう、しっかりと秘密保持義務を課すことは必須です。製造委託契約に先立ってノウハウ等を提供する場合は、秘密保持契約を先行させます。また、どんなに秘密保持義務を課しても、一旦流出してしまった技術を物理的に止めることは困難ですので、運用上、核となる技術については、いわゆる「ブラックボックス化」することを検討します。例えば、コアなノウハウを伴う部品だけは自社で作る、委託先を製造工程によって複数に分けて1社ではコピーができない状況を作るなどです。

  • 8.競業品の取扱い

    いつのまにか、自社とよく似た商品が外国で流通しているというトラブルは珍しくありません。良い商品であればあるほど模倣されやすくなります。貴社の技術が、競合他社の製品に流用されたり、あるいは委託先が貴社の技術を使って類似品を勝手に製造したりすることがないよう、契約で明確に禁止するとともに、運用面でもモニタリングを欠かさないようにすることが大切です。

  • 9.契約終了時の対処(知財、貸与品等の返還)

    生産委託契約が終了したときは、貴社の技術が流用されないよう、知的財産に関わる資料等を速やかに返却又は消去するよう、予め契約に定めます。また、貴社からの貸与品や支給品がある場合は、速やかに返還してもらいます。当該商品があまり売れずに撤退する場合であればさほど神経質にならずともよいですが、クオリティや生産能力を理由として工場を変更するような場合は、委託先に不満が残りますので、その後のトラブルも生じやすくなります。

海外業者への生産委託なら、国際弁護士へご相談

こうした課題は、丁寧な契約書の作成と交渉に加え、危機管理意識をもった日常的なモニタリングによって対応していく必要があります。

国際弁護士を擁する当事務所でも全面的なサポートが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

監修記事
樋口一磨

樋口国際法律事務所代表 樋口一磨

慶応義塾大学、一橋大学大学院、ミシガン大学ロースクール卒業。 日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士として、国際取引や海外展開の支援に強みを持ち、企業法務全般から身近なトラブル解決まで、国内・国外を問わず幅広い分野を親身にサポートする。

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