海外移住時の国際相続に関するよくある4つの質問

海外に居住される方からよくお受けするご質問をQ&Aでまとめてみました(居住国は仮にアメリカとしています)。

①アメリカ式の遺言があれば日本の資産も安心?

ずっとアメリカに住んでおり、預貯金の多くもアメリカにあるので、アメリカの弁護士にお願いして遺言(またはトラスト)を作成してもらっています。日本にも、預金や、相続で引き継いだ不動産がありますが、アメリカの遺言/トラストがあれば充分でしょうか?
日本において合わせて公正証書遺言を作成することをお勧めします。 遺言の効力は、それが作られた国の法律に従って判断されます。アメリカ方式で作られた遺言の有効性は、アメリカの州法によって判断されます。またアメリカでは検認手続(Probate)も複雑で、コストもかかります。相続が発生して、相続人が日本にある不動産や銀行口座の名義を変更しようとする場合、有効に作成された遺言書や遺産分割協議書などを示し、法務局や金融機関に対し、自分が正当な相続人であることを証明しなければなりません。 ここで、アメリカ式の遺言しかない場合、客観的にはそれも有効と認められるべきなのかもしれませんが、実際には、英語で書かれたその遺言がアメリカの州法では有効であることを、法務局や金融機関に理解してもらうことは容易でありません。この点、日本の公証役場で公正証書による遺言を作成しておけば、相続人は、その公正証書と身分証明書を持って申請するだけで名義変更ができます。なお、日本式の遺言であっても、公正証書としておかないと、日本の裁判所において検認手続が必要となり、相続人の負担となります。

②日本で相続が発生。私の権利は?

最近、日本に住む母が亡くなったことを知りました。どうやら1年位前になくなっていたようですが、遺言が残されていたらしく、アメリカに住む私には知らされないまま手続が進んでいるようです。私には権利はないのでしょうか?
遺留分の権利がないかを確認し、すぐに権利を保全しましょう。 日本特有の制度として、法定相続人には遺留分という権利があり、被相続人が遺言を残して誰かに遺産を全てあげようとしたり、相続の直前に資産を譲渡しても、法定相続人には最低限確保されるべき分が保証されている場合があります。例えば、配偶者と直系のお子様が法定相続人の場合は、遺言があったとしても、法定相続分の半分はそれぞれ確保されます。直系のお子様のみが法定相続人の場合は、法定相続分の3分の1が確保されます。但し、兄弟姉妹のみが法定相続人の場合は、遺留分はありません。相続開始の1年前までになされた贈与も遺留分の対象になります。 遺留分の主張(遺留分減殺請求といいます)は、相続の開始と減殺すべき遺贈等があることを知ってから1年以内、また相続の開始から10年以内に行わなければなりません。 遺留分が侵害された可能性があるときは、まず速やかに日本の弁護士に依頼して減殺請求を行った上で、遺産の状況を確認し、分割協議を行うことが肝要です。

③日本での相続手続に納得がいかないときは?

日本に住む父が亡くなりました。自分も存続人なのですが、資産の管理は父の近くに住んでいた兄が全て管理しており、最近、兄から「あなたの取り分はこれだけです。この書面にサインすれば送金します。」と連絡がありました。しかし、父の財産はもっと多かったのではと思っており、兄の説明に納得がいきません。
弁護士を通じ遺産状況を確認し、また調停を利用して公平な分割を。 まず、遺言がないか、また遺言があっても法律に則った有効なものかを確認してください。有効な遺言があれば、前回述べた遺留分の権利がないかを確認します。遺言がない場合は法定存続分で相続することが原則となり、手続としては相続人間で遺産分割協議書を締結することで資産の名義変更などを行います。 遺産の内容や分割方法に納得できない場合は、納得するまでそのような書面へのサインは控えてください。制度上、資産内容の開示を強制することはできないのですが、まずは日本の弁護士を代理人として交渉を依頼し、それでも納得いかない場合は代理人弁護士にて日本で遺産分割調停を申し立て、裁判所経由で開示を求めることで、より客観性の高い情報を入手することが期待できます。また、調停を利用することで、分割の方法についても、より公平な内容になることが期待されます。 なお、寄与分といって、実際に被相続人の療養看護などをしたり、被相続人に財産を提供していた人には、法定相続分よりも多くの権利が認められることがあります。

④日本にいる両親の資産が心配?

日本に高齢になる父がおり、それなりの資産があります。私はアメリカに住んでおり、父の身辺は日本にいる弟に任せていますが、最近、父の判断能力が鈍くなってきている一方、弟は浪費癖があるので、父の資産が散逸しないか心配です。
成年後見制度を活用して資産の保全を 成年後見制度は、判断能力が衰えた方の資産を守る制度です。ご家族などの請求によって裁判所が後見人を選任して、ご本人に代わり後見人に資産を管理させる法定後見と、ご本人との契約に基づいて資産管理を行う任意後見があり、一般的には法定後見を意味します。後見人が選任されると、日常的な支出を除き後見人が本人を代理して資産を管理しますので、ご本人だけでなく他のご家族を含む第三者が勝手に資産を費消することを防ぐことができます。後見人は、定期的に裁判所に資産状況を報告しなければならず、また重要な資産の処分については裁判所の許可が必要となりますので、後見人の不正も防止されます。後見人については、裁判所は、請求者から候補者の提案があればそれを尊重して選任します。お身内に適任者がいなければ弁護士を候補者とすることもできます。
監修記事
樋口一磨

樋口国際法律事務所代表 樋口一磨

慶応義塾大学、一橋大学大学院、ミシガン大学ロースクール卒業。 日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士として、国際取引や海外展開の支援に強みを持ち、企業法務全般から身近なトラブル解決まで、国内・国外を問わず幅広い分野を親身にサポートする。

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