海外展開では契約書が極めて重要?よくあるトラブルや弁護士の必要有無について

今回は、これから海外展開を検討される方に向け、およそどのようなことに留意したらよいかを簡潔にまとめてみます。
  • 1.海外展開のパターン

    海外展開には、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。
    (1) 貿易型取引
    貿易型取引とは、海外現地に拠点や代理店を置かず、海外の企業と直接の取引を行う形であり、海外展開の導入的な形態といえます。現地でのプレゼンスはありませんが、開始も撤退も比較的容易であり、それに伴うリスクも低めです。代表的な取引は、輸出販売、輸入仕入れ、技術ライセンス(イン・アウト)などです。
    (2) 間接進出型
    間接進出とは、海外現地のパートナー企業と継続的な契約をし、貴社に代わって販売や製造をしてもらう形態です。販路開拓であれば代理店・販売店、製造であれば生産委託の形が典型です。契約ベースゆえ、直接進出よりハードルが低いですが、現地パートナー企業のコントロールが重要となります。
    (3) 直接進出型(販売拠点、製造拠点)
    海外展開の最も発展した形は、現地に直接、貴社のプレゼンスを置くことです。典型的には、駐在員事務所、支店、子会社といった形態があります。駐在員事務所は、設置は簡単ですが、営業などの活動が限定されます。支店は、子会社よりは設置や解散が容易といえますが、駐在員事務所と同様、本国の本社と経済的にも法的にも一体として扱われるため、現地のトラブル等が本国に波及するリスクが高いです。 子会社を設立する場合には、現地の規制により外資単独での設立が認められていなかったり、あるいは現地パートナーの協力を得るという積極的な理由で、合弁を組むケースも多いです。
  • 2.対象国の法律や規制が問題

    直接進出の場合は、現地の子会社等の設置・運営は、完全に現地の法規制に従ってなされる必要があります。また、間接進出の場合でも、相手国の代理店保護法や独占禁止法などが問題となる場合があります。貿易取引の場合でも、契約書の準拠法によっては外国法を調査するべき場面が生じます。
  • 3.日本的な「信頼関係」に依存した取引は危険

    外国の取引相手は、当然ながら、我々日本人とは文化や慣習が大きく異なります。日本人は、信頼関係を大切にし、「阿吽の呼吸」「暗黙の了解」といった感覚を持ち、また紛争を好まず「話せばわかる」と考える傾向にあり、それはそれで素晴らしい文化なのですが、そのような美徳は、国境を一歩出れば全く通用しないと考えておくべきです。ご相談をお受けしていると、「あの人は誠実で真面目そうだから」などとすぐに信用してしまう方が多いのですが、とても危険です。
  • 4.よくあるトラブル

    展示会などで引き合いを受け、喜んで受注したのも束の間、トラブルに巻き込まれるケースも多いです。大きな注文を受け、取引相手の信用情報をきちんと確認しないまま納品したところ、代金が回収できなかったりします。ひどいケースには詐欺的なものもあり、大型機械のサンプルを送ったところ連絡が取れなくなったり、更には後で調べたら取引相手が法的に存在していなかったということもあります。
  • 5.信用情報の重要性

    このようなトラブルを避けるためには、国内にも増して、取引相手の信用情報を確認することが重要です。請求は、契約の名宛人に対してしかできませんので、公的な方法でその存在を確認し、できれば費用をかけても与信情報を入手したいです。詐欺的な場合はホームページすらない場合もありますので、まずはインターネットでの検索も有効です。
  • 6.紛争時の解決がより困難

    海外取引は、どのような注意しても、文化や慣習、また言語の違いによるコミュニケーション不足などから、国内よりもトラブルが生じやすいといえます。しかも、別の法制度に属する当事者間での問題ですから、トラブルの解決は国内よりも相当困難となります。例えば、海外の買主が代金を支払わない場合は、どちらかの国の裁判所で判決を得て、それを相手国の裁判所に認めてもらい、そして買主の資産を探して強制執行しなければなりません。
  • 7.契約書が極めて重要

    このように、海外展開には多くのリスクが伴いますので、それを事前にできるだけ予防することが肝要であるところ、そのための最も重要なツールが契約書です。文化や慣習の壁を超えて、共通認識をはっきりと明文化するとともに、相手にきちんと責任を負ってもらい、かつ自社が過度の責任を負わないよう、しっかりと作りこむべきです。日本国内では、契約書を交わさずに済ませてきたという方でも、国際取引では契約書は必須です。契約書なしで国際取引をすることは、羅針盤を持たずに航海するようなものといえます。 なお、国際取引の契約には、海外特有の観点が必要であり、また瑕疵担保など国内の概念がそのまま通用しない部分もあります。条項としても国内取引の契約ではあまり見かけないもの(貿易条件、準拠法、紛争解決等)があり、それらも大変重要となります。契約書は英文であることが多いですが、英語の表現も独特です。従いまして、国際契約に精通した専門家のサポートを受けることが必須です。よく、国内のひな形を単純に英訳して使用しようとする方がいらっしゃいますが、とても危険です。
  • 8.対象国での知的財産の保全

    特許や商標といった知的財産権は、基本的に国ごとに保護されますので、日本ですでに登録されていても、例えばベトナムでも保護を受けたければベトナムにおける登録が必要です。日本のブランドは、(特にアジアでは)よく模倣されます。よい商品であればあるほど模倣されるといえます。また、(特に中国でよく耳にしますが)第三者が勝手に貴社の商標を登録してしまうこともあります。万が一そのようなことがあると、その第三者から商標を買い受けるか、ライセンスを受けない限り、貴社はその商標を当該国で使用できなくなってしまいます。 そのような事態を避けるためには、自社として先行して対象国での登録を行う必要があります。進出の初期段階でコストと手間をかけることへの抵抗もありますが、本気で展開するのであれば、必要経費ととらえるべきです。
  • 9.その他

    以上、主なポイントを簡潔に述べましたが、他にもカントリーリスクや為替リスクなどの一般的リスクもあります。
海外展開は、リスクも高いですが、島国である日本とは比べ物にならない大きなチャンスが拡がっていますので、専門家のサポートを得ながら、ぜひチャレンジしていただき、日本経済へ還元していただければと思います。 以後のコラムでは、貿易取引、間接取引、生産委託、秘密保持、合弁といった典型的な契約などについて個別に申し上げたいと思います。
監修記事
樋口一磨

樋口国際法律事務所代表 樋口一磨

慶応義塾大学、一橋大学大学院、ミシガン大学ロースクール卒業。 日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士として、国際取引や海外展開の支援に強みを持ち、企業法務全般から身近なトラブル解決まで、国内・国外を問わず幅広い分野を親身にサポートする。

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