輸出販売における契約書や代金回収リスクについて解説

ここでは輸出販売、すなわち自社が海外取引先に商品を販売し、代金を受け取るケースについて、特に気を付けるべき点を述べます。輸出販売は、貿易型取引、すなわち海外現地に拠点や販売店等を置かず、海外の企業と直接の取引を行う形態の一類型です。現地でのプレゼンスはありませんが、開始も撤退も比較的容易であり、それらに伴うリスクも低めであるため、海外展開の導入的な形態といえます。もっとも、国際取引特有の留意点が多々あります。

  • 1.代金回収リスク

    買主が代金を支払ってくれず、話し合いも功を奏しない場合、最終的には、裁判所に訴えを提起して判決を得、知れたる預金や不動産に対して強制執行をすることで回収を試みることになります。この手続は、日本国内であっても大変ですが、海外であれば尚更です。まず、どちらの国で裁判を起こすべきか(また、起こせるか)が問題となります。日本の裁判所に訴えることができれば簡便ではありますが、日本の裁判所の判決を相手国の裁判所に承認・執行してもらう必要があるのですが、それが認められない場合も多々あります。とはいえ、外国の裁判所で訴えることはコストもかかります。また、そもそも相手方の資産がわからなければ判決をとっても意味がないかもしれません。

    このように、海外取引では代金回収できない場合のリスクが高いため、与信判断をより慎重におこなうことが肝要です。そして、可能な限り前払いを受け、あるいは信用状(L/C)の活用を検討します。

  • 2.製品についての責任(保証、アフターサービス、知的財産等)

    納品した製品に問題があった場合、売主としてどこまで責任を負うべきか、契約で明確にしておく必要があります。そうでないと、買主は、相手国のデフォルトルールや独自の理屈を主張してくるかもしれません。特に、保証の内容、条件を明確にし、所定の場合の責任制限を設けることは売主として必須です。

    また、製品が何らかの知的財産を含む場合、買主としては、その製品が現地にて他者が保有する知的財産権を侵害していないことの保証を求める傾向にありますが、このような保証に応じることはとてもリスクが高いです。売主としては、このような保証はできるだけ明文で免除または軽減するべきです。

  • 3.物流に伴うリスク

    日本は島国ですので、製品は必ず海を超えなければなりません。海上か航空か、コンテナか混載かなどによって状況は異なりますが、いずれにせよ、物流の過程で、当事者の与り知らぬところで製品が毀損や紛失する可能性が高くなります。従いまして、どちらがどこまでの運送を手配し、どの時点で危険についての負担が売主から買主に移転するのか、明確に定めることが重要です。

    また、そのような損失を回避するためには保険が有用ですが、どこまでの保険をどちらが付保し、またその費用をどのように処理するかもきちんと合意する必要があります。

    こうした条件は一般に貿易条件と呼ばれ、実務では、国際商工会議所が編纂するインコタームズという準則に基づいて取り決められる例も多いです。

  • 4.国際物品売買契約に関する国際連合条約

    国際的な物品売買については、国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約/CISG)という契約ルールが存在し、その締約国間の取引では、条約のルールが自動的に適用されます。日本も現在は締約国であり、日本企業が取引するような主要国はほとんどが締約国です。ウィーン条約は、国際的な物品売買について国際的な通則を定めようとするものであり、日本法と異なる部分が多々あります。それ自体、けして悪いものではないのですが、日本法が適用されると思っていたのに、ウィーン条約が適用されてしまうという状況は避けなければなりません。ウィーン条約の適用は合意により排除できますので、契約書に明記することが肝要です。

監修記事
樋口一磨

樋口国際法律事務所代表 樋口一磨

慶応義塾大学、一橋大学大学院、ミシガン大学ロースクール卒業。 日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士として、国際取引や海外展開の支援に強みを持ち、企業法務全般から身近なトラブル解決まで、国内・国外を問わず幅広い分野を親身にサポートする。

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