不可抗力と事情変更の法理

契約締結後に想定外の事態が生じた場合

契約を締結すると、当事者はその内容に拘束され、記載されたとおりに債務を履行する義務を負い、それを怠ると相手方に対する損害賠償などの責任を負います。しかし、契約締結後に、契約時には想定していなかった事態が生じ、債務の履行が困難になることがあります。そのような場合でも、契約とおりの責任を負うというのが法律の原則です。債務者にとっては厳しいですが、安易に契約の拘束力を弱めると、契約の意味が失われてしまうためです。

例外として、債務を免れうる根拠として検討されるのが、不可抗力と事情変更の法理です。もっとも、これらは法的な位置付けが異なり、また認められる余地も異なります。

不可抗力とは

日本では不可抗力であれば免責される

不可抗力とは

不可抗力とは、英語ではForce Majeureと呼ばれ、一般に人の力による支配や統制が及ばない自然事象や社会現象を意味します。判例上は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして責に帰することができない事由」などと定義されます。例えば、洪水、台風、自身、津波、火災、戦争などです。

日本の契約責任論においては、伝統的に、債務者の過失がない場合は免責されます。それは、以前は判例上の解釈によるものでしたが、2017年の改正で民法415条1項但書にそれが明文化されました。

不可抗力と債務者の債務

不可抗力によって債務者が債務の履行を妨げられたときは、債務者に過失がないということになるため、免責されるということになります。つまり、不可抗力は、債務者が無過失であるという場合の一態様ということができます。

もっとも、不可抗力は無過失とイコールではありません。不可抗力があったとしても、他に過失がある場合も想定されるからです。ですので、「不可抗力の場合は免責」と書いてあれば、不可抗力であったことを証明すれば免責されますが、「無過失の場合は免責」と書いてある場合は、単に不可抗力があったことだけでなく、他にも過失がないことを証明しなければ免責されないこととなります。ちなみに、債務不履行責任を追及される場合、債務者が過失のないことについて立証責任を負います。

なお、民法上、金銭債務の不履行は、不可抗力をもって抗弁とできません(民法419条3項)。不可抗力があっても、代金など金銭の支払いはできるはずとの前提です。

不可抗力による契約の解除はできるか

不可抗力の効果は、上記のように債務不履行の場合に免責されることにとどまり、自分が不可抗力によって履行できないから契約を解除することまでは認められません(相手方の債務不履行を理由として契約を解除する余地はあります)。従いまして、不可抗力が続いたときには契約を解除したい場合は、契約にその旨を明記しておく必要があります。

国際取引における不可抗力

不可抗力に関する詳細な概念やルールは国によって異なりますが、およそ不可抗力の場合に免責を受けられるという発想自体は、国際的にも共通であると言えます。

国際的な物品の売買についてのルールを定めた「国際物品売買契約に関する国際連合条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods)=CISG」では、不可抗力という文言は避けられていますが、①債務者の統制(control)の外にある障害であること、②契約締結時に考慮に入れることができなかった障害であること、③回避困難かつ克服困難な障害であること、という要件が満たされれば、免責されると規定されています。
  

何が不可抗力か

もっとも、何が不可抗力であるかという客観的な指標はありません。日本の民法でも、不可抗力が登場するのは、419条3項に「金銭債務の不履行は、不可抗力をもって抗弁とできない」とあるのみです。上記の「国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)」でも、不可抗力という概念は定義されていません。実務上も、契約書によって内容に差があります。

ですので、単に契約書に「不可抗力の場合は免責」と記載するだけでは、具体的な事案において適用の有無が曖昧となります。それ故、契約書には、不可抗力事由を例示(限定列挙ではなく、あくまで例示とします)することが望まれます。特に、商品やサービスを販売する側は、不可抗力の恩恵を受ける可能性が高いため、想定される事由を具体的に記載しておくことが肝要です。最近では、新型コロナウイルスの蔓延を受けて、伝染病(epidemic)を明記する例が増えています。

不可抗力条項の一例

以下は不可抗力条項の一例です。

条項例①

例:「いずれの当事者も、本契約上の義務の履行に遅滞又は不履行があった場合、当該遅滞又は不履行が、影響を受けた当事者の合理的な制御を超える事由(「不可抗力」)によって引き起こされた場合、相手方に対し責任を負わないものとする。かかる事由は、嵐、台風、洪水、地震、火災などの天災地変、政府機関の行為、法令の順守、戦争(宣戦布告の有無を問わない)、海賊、反乱、革命、暴動、ストライキ、ロックアウト、伝染病を含み、これらに限られない。」

条項例②

支払いを受ける側では、金銭債務が免責されないことを明記することをお勧めします。

例:「但し、本契約に基づき期日が到来した金銭の支払い債務は、不可抗力によっても免責されないものとする。」

条項例③

支払いを受ける側では、不可効力が広く解釈され過ぎないよう、除外する事由を明記することも検討します。

例:「経済の悪化、需要の低下、原材料の不足、又は労働力の不足は、不可抗力とはみなされないものとする。」

参考:顧問弁護士がいることで紛争の予防ができる?

事情変更の法理とは

事情変更の法理

事情変更の法理とは、契約の基礎となった事情が契約締結後に著しく変更し、当初の契約を維持することが著しく均衡を害するような場合に、契約内容の改訂や解除を認めるという法理です。不可抗力は、原則として履行遅滞や不履行の場合の責任を免じられるだけで、契約内容の変更や解除を認める効果は生じません。

事情変更の法理は、ハードシップ(hardship)条項などとして、欧州を中心に認められている国もあります。例えば、ドイツやフランス、また国際的なモデル準則のひとつであるユニドロワ国際商事契約原則(Principles of International Commercial Contracts = PICC。但し、これ自体には法的拘束力はありません。)では、一定の条件を満たす場合は、契約内容の改訂を申し入れる権利を与えたり、裁判所に契約内容の改訂や解除を求める権利が与えられるなどしています。

日本における事情変更の法理

日本では、事情変更の法理は、判例は一般論としては承認しています。つまり「いわゆる事情の変更により契約当事者に契約解除権を認めるがためには、事情の変更が信義衡平上当事者を該契約によって拘束することが著しく不当と認められる場合であることを要するものと解すべきであって、その事情の変更は客観的に観察されなければならない」(最高裁判例昭和29年2月12日)と言及されています。しかし、適用については極めて消極的で、現時点で実際に適用された公開判例はありません。また、立法化も検討されたことがありますが、実現はしていません。

ですので、契約当時の事情(例えば為替レートや原材料価格)が変更したときには契約条件を見直したいという場合は、予め契約書に条件と効果を定めておくことが必要となります。

新型コロナウイルス

2020年初旬以降に蔓延した新型コロナウイルス(COVID-19)が不可抗力に当たるかどうかは、世界中で問題となっています。もちろん不可抗力に当たるという可能性も高いのですが、国、地域、当事者、債務内容などの具体的な事情に沿って個別具体的に判断されるべきものであるため、コロナだから一律免責ということにはなりません。政府の強制的なロックダウンの命令に従う場合は不可抗力となることに異論はないといえますが、日本のような「要請」にとどまる場合はどちらの判断もありうると言わざるを得ません。未曾有の事態である上、現時点(2020年6月時点)では紛争が裁判所で判断されるに至っていませんので、今後の事案の集積を待つほかないといえます。

日頃のリスクヘッジ

不可抗力条項は、いわゆる一般条項のひとつであり、契約書の作成・レビューにおいても軽く流してしまいがちですが、昨今の自然災害の増加や新型コロナウイルスの惨状に照らせば、不可抗力条項が適用されうる状況は、けして稀ではないといえます。不履行の場合のインパクトも大きいため、契約書の記載ひとつで企業の存続が左右されうるといっても過言ではありません。いざというときのために、日頃から不可抗力条項にも細心の注意を払うことが必要となっています。

参考:顧問弁護士と契約することで得られるリスク管理と有事の際の安心について

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