国際相続とは?適用される法律や手続き

国際相続とは?

一般に、何らかの国際性をもつ相続を国際相続と呼びます。それには以下のように様々なパターンがあります。

国際化が進む今日、こうした状況が生じることは全く珍しくありません。

  • 被相続人が外国人である。
  • 被相続人は日本人であるが、外国に居住している。
  • 相続人の中に外国人がいる。
  • 相続人は日本人であるが、外国に居住している。
  • 遺産の中に、外国に所在しているものがある。
  • 外国法の下で作成された遺言がある。

このような要素がありますと、以下のような問題が生じえます。

国際相続の問題

外国の相続法が適用される可能性がある。

(次に述べます。)

外国における相続人の状況を調査する必要がある。

(日本では戸籍制度が整っていますが、大多数の外国ではそのような制度はありませんので、身分関係の確認を公的に行うことに困難が伴います。

外国人との間で外国語でのコミュニケーションを取る必要がある。

相続人である外国人から、日本の戸籍謄本や印鑑証明に類する書類を取得する必要がある。

遺産分割協議書を、外国語で作成する必要がある。

外国にある資産の名義変更、処分、引き出しなどに手間がかかる。

(特に、英米法系の国においては、適用法が日本法であっても、プロベイトという現地法における裁判手続が必要とされる場合があります。

外国で作成された遺言についての効力の確認や執行を行う必要がある。

こうした問題に対処するには、複雑な法律の適用関係を整理する知識に加え、英語を中心とした語学力と、諸外国の現地で対応してもらう専門家のネットワークが必要となります。

しかし、相続を扱っている日本の弁護士の多くは、伝統的に国内で完結する案件のみを扱っており、語学力に長けていることも少なく、国際的なネットワークも乏しいといえます。

相続税の申告に対応する税理士にも同じ傾向があるといえます。そのため、手続が止まってしまいお困りのケースによく出会います。このような事案に対応できる国際弁護士は、とても限られているといえます。

国際相続の際に適用される法律はどの国のものになるか?

複数の国の法律が適用される可能性がある場合、どの法律を適用されるかについて、日本では「法の適用に関する通則法」という法律によって定まります。

同法では、相続については「被相続人の本国法」によるとされています(36条)。

本国法とは、原則として国籍を有する国の法となりますが、複数の国籍を有する場合(世の中にはたくさんいます)には、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法が当事者の本国法とされます。

ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とされます。

また、当事者が国籍を有しないときは、その常居所地法によります(38条)。

但し、この通則法が適用されるのは、日本の裁判所がこれを判断する場合となります。

例えば、被相続人が日本人であっても、英米法系の国に所在する遺産の名義を変更するには、原則として現地においてプロベイトという裁判所の手続を得る必要があるところ、その際に現地の裁判所が参照するのは現地の法律です。

相続統一主義と相続分割主義

そもそも、相続の準拠法を決定するルールには、相続統一主義と相続分割主義と呼ばれる制度があります。

相続統一主義とは、被相続人の属性(本国法や所在地)によって、世界中で共通の国の法律が適用される考えです。

日本をはじめ、欧州などの多くの国で採用されています。

他方、相続分割主義とは、被相続人の財産の種類によって準拠法が分けられ、不動産については所在地の法律を、動産については居住地の法律を、それぞれ適用するという考えです。

アメリカをはじめとする英米法系の国は後者です(なお、アメリカでは、連邦国家レベルではなく各州のレベルで相続法が定められており、それぞれ違いがあります)。

このように、国によって適用される法律が異なりうるため、状況によっては法律の適用関係が極めて複雑になり、時には曖昧になります。

そのため、国際弁護士を通じ、外国の弁護士とも協力しながら対応していくことが求められます。

国際相続における具体的な対応方法

国際的要素のある相続が発生した場合、以下のような対応が必要となります。

なお、以下は法務と手続の側面ですが、もちろん税務申告も必要となり、こちらも対応できる税理士には専門知識が求められます。

身分関係の確認

日本の戸籍関係の他、状況によっては外国における身分関係の調査も必要となります。

準拠法の確認

どこの国の法律が適用されるかを確認、検討します。

法定相続人の所在の調査

準拠法に基づき法定相続人と思われる人物の所在を調査します。日本では住民票がありますが、外国では必ずしも住所登録制度が整っておらず、探偵などを利用することもあります。

遺言の確認

遺言があれば、その有効性や、関連する法律について調査します。なお、日本では、遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法によります(通則法37条)。また、「遺言の方式の準拠法に関する法律」もあります。

遺産の調査

外国にある資産についても、原状の把握が必要となります。また、それらの名義を変更するためには、どのような手続が求められるかを検討します。

プロベイト

アメリカ、シンガポール、香港など、英米法系の国では、当該国に所在する財産の名義を変更するには、プロベイトという裁判所の監督下で相続財産を清算する手続が原則として求められます。これには、現地の弁護士を雇用し、時間とお金をかけて臨む必要があります。
日本を含む、いわゆる大陸法系の国では、基本的に、包括承継主義といって、被相続人の債権債務を相続人がそのまま包括して承継する制度が取られています。そのような国ではプロベイトはありません。他方、英米法系の国では、清算主義といって、相続財産は一旦、相続財団(estate)に帰属し、裁判所の管理下で、公租公課や債務の支払いなどの清算をおこない、残余分が相続人や受遺者に分配されるのです。

遺産分割

遺産分割協議書を締結しますが、相続人に外国人がいる場合は、その方が理解できる言語を付する必要があることに加え、日本人であれば印鑑証明書を提出すべきところ、それを準備できない外国人については、本国の公証人の面前でサイン証明を作成してもらうなどの工夫が必要となります。

名義変更

遺産分割協議書を元に、各資産の名義を相続人に変更しますが、外国では、当局や金融機関から、追加書類の提出を求められることが多いです。日本の戸籍や死亡証明書の英訳と、それが正確であることの証明書などです。

国際相続で注意すべきポイント

このように、国際相続は、とても複雑で、対応に時間とコストがかかる可能性があります。

そして、それは避けて通れない途であり、さもなければせっかくの遺産が塩漬けになってしまいます。
こうした問題に対処できる弁護士は限られており、また相続税の申告期限もございますので、ご自身でのご対応が難しいと思われたら、すぐに国際弁護士にご相談になってください。

国内であれば、相続人間に争いがなければ、弁護士を介さずに遺産分割を完了することも可能ですが、国際相続の場合は、争いがなくても弁護士の関与はほとんど必須といえます。

なお、上記では、主に国際相続が起こった後のことについてお話しましたが、生前に準備をすることで、相続人の負担を軽減することができます。

代表例は遺言です。遺言は、日本において公正証書遺言を作成することはもちろんですが、財産が所在する国ごとに、当該国の方式に従って作成しておくことをお勧めしています。

また、英米法系の国に財産をお持ちの場合は、プロベイトを避ける工夫を検討するべきです。

撤回可能な信託(revocable trust)、死亡時受取人指定、共有者が自動的に権利を取得することになる「ジョイント・テナンシー」などがあります。

当事務所の国際相続サービスについて

当事務所は、国際相続に関するご相談や手続のサポートに広く対応しております。主要国に弁護士の独自ネットワークを持ち、英語でのコミュニケーションも代行いたします。

国際相続についてよく質問いただいている内容もまとめておりますので、海外居住の方からよくあるご質問も合わせて見ていただければと思います。

税務申告についても、必要に応じて専門家をご紹介いたします。お気軽にご相談ください。

監修記事

樋口一磨

樋口国際法律事務所代表 樋口一磨

慶応義塾大学、一橋大学大学院、ミシガン大学ロースクール卒業。

日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士として、国際取引や海外展開の支援に強みを持ち、企業法務全般から身近なトラブル解決まで、国内・国外を問わず幅広い分野を親身にサポートする。

事案を問わず、そして国内外を問わず、お気軽にご相談

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